斜視とは、右目と左目が違う方向を向いている状態です。一部の斜視を除き、子どもに見られる斜視は原因が不明です。
斜視があると、視力の発達が悪い(弱視)、遠近感がわからない(立体視ができない)、物が二つに見える(複視)、美容的な問題、疲れやすいなどの問題が生じます。
斜視には、目を動かす筋肉(外眼筋)に麻痺のないタイプ(共同性斜視)と麻痺のあるタイプ(麻痺性斜視)があります。子どもの斜視のほとんどは麻痺のない共同性斜視です。
もし麻痺性斜視が疑われた場合には、外眼筋や脳神経に障害や病気がないか、精密検査が必要です。
片目でものを見ても立体的に見えません。両目で見るので、ものが立体的(3D)に見え、遠近感がわかるのです。両目を同時に使ってものを見ることを、「両眼視」といいます。
人は生まれた瞬間からよく見えるわけではありません。生まれたばかりの赤ちゃんは、ものの形もよくわからず、明暗程度しかわからないといいます。
そのうち視力が発達しはじめ、同時に立体視も発達してきます。
立体視は2歳頃までに発達するとされています。立体視が発達するためにはいくつかの条件があります。
それは、1両目とも良い視力であること、2両目とも同じ方向を向いていること、3両眼の屈折度に大きな差がないこと、です。
1~3があれば、多くの子どもたちは自然と両目をうまく使えるようになり、ものが立体的に見えるようになります。これを専門用語で「両眼視の獲得」と表現します。
立体視ができない人がいます。それは先に述べた1~3のうち、どれかが欠けていたからでしょう。
しかしその人は、立体視のない状態で子どもの頃からずっと生活をしていますので、日常生活にまったく不自由はありませんし、自分にハンデがあると感じることもありません。
しかし立体視が弱い、あるいはできない場合、将来の職業選択が制限されることがあります。
たとえば電車の運転士や、バスやトラックの運転士になる(大型免許を取る)には、立体視が必要です。
また医師免許を取得するのに立体視は必要ありませんが、立体視がなければ手術をすることは難しいかもしれません。
ですから、斜視を治して立体視を獲得するに越したことはありません。そのためには、子どものある年齢までに適切な訓練を受けることが重要です。
逆に立体視(両眼視)が発達した後に斜視が出現すると、ものが二つに見えます。これを複視といい、状況によっては非常な不便を生じます。
外斜視とは片方の目が外にズレている状態です。子どもの外斜視で最も多いのが「間欠性外斜視」というものです。
間欠性と名づけられているとおり、常に斜視になっているわけではなく、まっすぐ普通の目線になっているとき(外斜位)とズレているとき(外斜視)があります。
外斜位と外斜視の割合や頻度はさまざまです。
間欠性外斜視ではまっすぐ普通の目線のときは両眼視ができていますので、ほとんどの子どもで視力や立体視(両眼視)の発達に問題はありません(例外はあります)。
間欠性外斜視を治すには手術が必要ですが、手術をしても、しばらくすると斜視が再発することが多く、しばしば再手術が必要です。
さらに間欠性外斜視の手術は、年長になってから受けたほうが手術後の斜視の再発が少ないといわれています。
しかしあまりに年長まで手術を待つと、周囲との関係の問題もありますので、手術を受ける時期は担当医とよく相談してください。
間欠性外斜視は、まれに外斜位の状態がなくなることがあります。
つまり、「まっすぐ普通の目線になっている」ときがなくなり、常に外斜視の状態になることがあります(恒常性の外斜視)。
この場合は早急に手術が必要になることがあります。したがって間欠性外斜視があってすぐには手術を考えていなくても、定期的な眼科受診は必要です。
頻度は低いですが、生後すぐから恒常性の外斜視が見られることがあり、この場合、目の病気の有無、弱視の合併に注意が必要です。
内斜視には、大きく分けて、遠視によるものと、目が内向きについているものの2種類があります。
遠視によるものを調節性内斜視といいます。誰でも近くのものを見るには目に力を入れてピントを合わせ、「寄り目」になります。
この、目に力を入れてピントを合わせることを専門用語で「調節」、寄り目になることを専門用語で「輻湊」といいます。調節と輻湊は同時に起こります。
遠視があると、遠くのものを見るときでさえ「目に力を入れてピントを合わせる(調節する)」必要があり、その結果、同時に「寄り目になる(輻湊する、つまり内斜視になる)」のです。
ただ、遠視があるとすべてが内斜視になるわけではなく、調節と輻湊のバランスが悪い場合に内斜視となります。
調節性内斜視の治療は、まず遠視を矯正する眼鏡をかけることで、眼鏡をかけるだけで斜視が治ることもあります。
生まれつき目が内向きについている内斜視です(先天性内斜視)。代表的なものは、生後6ヵ月以内に発症する「乳児内斜視」です。
前述したように、立体視(両眼視)は2歳頃までに発達するとされていますので、乳児内斜視では、早期(おおむね2歳まで)に手術を行うことがあります。
ただし手術の適応症例は限られます。
乳児内斜視の他にもさまざまなタイプの内斜視があり、他の眼疾患や弱視を合併してい ることがあります。
眼球をはさんで向かい合っている外眼筋、上直筋と下直筋、内直筋と外直筋、上斜筋と下斜筋は同じ力で眼球を支えています。
しかし、生まれつき下斜筋(目を上に向ける筋肉)の力が上斜筋(目を下に向ける筋肉)よりも強いことがあり、この場合は、眼球が上を向いてしまいます。
これを「下斜筋過動」といいます。眼球の上向き状態(上転)は、特に内を向いたときに目立ちます。
下斜筋過動は単独でも見られますが、多くは他の斜視に合併しています。両眼視に影響する場合や美容的な問題があれば手術をすることがあります。
実際は斜視でないのに両目の間が広いために内斜視のように見えるものを「偽斜視」といいます。
偽斜視は成長とともにだんだんと斜視には見えなくなってきます。
ただ、偽斜視のように見えてもまれに本当の斜視のことがありますので、注意が必要です。
家族内で斜視が発症することがあります。しかし遺伝性の病気に合併する斜視を除いては、斜視に特定の遺伝子は見つかっていません。
つまり今のところ、斜視そのものが遺伝するということはなさそうです。
斜視の治療には、①眼鏡をかける、②手術、③訓練などがあります。
まず裸眼視力が悪く、眼鏡が必要であれば処方します。眼鏡はつけたり外したりせず、起きている間はずっと眼鏡をかけてください。
特に調節性内斜視は、眼鏡だけで斜視が治ることがあります。
次に手術の適応を考慮し、希望があれば手術を行います。斜視は手術をしなければ失明するという疾患ではありません。
しかし、弱視を治して、良い視力と立体視(両眼視)を獲得するために手術が必要な場合があります。
訓練が必要になるのは一部の間欠性外斜視だけで、訓練の適応はごく限られます。した がってほとんどの症例は手術の適応になります。